140字の外

140字に収まらないもの置き場です。始まりは天保十二年のシェイクスピア。

メイビー、ハッピーエンディング① オリバーとジェームズ

2020.8.22

 

オリバーとジェームズのこと。

記憶が薄れないうちに走り書きで残しておこう、の記録。

 

 

最初、オリバーがチェジュ島に向かうために家を出るとき、彼は100%もう戻らないつもりでいるのだな、と思った。

だから、この家とはお別れだ、と言うのだと。

ジェームズに会いに行くから。

 

自分が会いに行くことができたら、ジェームズは「迎えに行けずにごめん」と謝って、オリバーとの再会を心から喜んでくれると信じているから。

家を出た後の自分は、ジェームズを手伝うためにジェームズの側に居るか、もし万が一ジェームズが亡くなっていたとしても、ジェームズの家族を手伝うかの二択しかない、だから、この家とはもうお別れだ、と。オリバーはそう素直に考えているのだろうと、初回は思った。

 

ただ、今日二回目を観てみて少し考えてしまった。

 

色々考えた、とオリバーは言っていたけれど、オリバーが想定したのは本当にジェームズが亡くなっていた場合だけだったんだろうか。ずっと音沙汰のないジェームズのことを、オリバーはずっと信じていられたのだろうか。

いつか会いにいくためのお金は貯めていても、いざ行こうと誘われると少し躊躇ったオリバー。クレアに「ジェームズはあなたを捨てた」と言われたとき「放っておいてくれ」と怒ったのは、本当は自分でもそれを恐れていたから?

持ち主を失った旧型ロボット専用のアパートに暮らしながら、オリバーは、どこまでジェームズを信じていられたんだろうか。長い年月を一人部屋で待ち続ける中で、本当は、心のどこかでジェームズのことを信じられなくなっていったんだろうか。と、少し考えてしまった。

 

ただ、今日観終わった後、それでも何となく、オリバーは100%信じていたんじゃないかなと思った。彼はジェームズのことを100%、ちゃんと信じていたかったんじゃないか。

 

人間は、傷つかないように事前に予防線を張る。

「もしかしたらジェームズは自分のことなんてとっくに忘れたのかもしれない」

「ジェームズは自分を捨てたのかもしれない」

「期待しない方がいい」

ジェームズが自分を捨てたのかもしれないと疑った方が、本当にそうだったときに傷つかないで済む。負ったとしても傷が浅くて済む。

もしくは反対に、その疑いを封じて封じてなかったことにしておくか。

私がオリバーなら、そうしてしまうかもしれない。

 

けれど、オリバーはやっぱり、ちゃんとジェームズのことを信じていたんじゃないかと思うのだ。

「ジェームズは僕の友達だ」というオリバーの言葉に、ジェームズとの思い出を嬉しそうに、誇らしそうに語るオリバーに、嘘はなかったように思えたから。見栄を張るためでも自分を騙すためでもなく、ただ本当にオリバーはきっとそう信じていた。

 

だからこそクレアは心配したんだろう。 

もし思っていた再会と違くてもそれはあなたのせいじゃない、と伝え、家に入る直前には「あなたはジェームズに捨てられた」のだと言い、オリバーが傷付く前に彼を止めようとした。彼女は人間の心が移ろいやすいことを知っているから。心から信じて裏切られ、傷付くオリバーを見たくなかった。

 

けれどオリバーは、ジェームズを信じていた。

それは疑う心を見ないようにしていたとか蓋をしていたとか、もしくは疑う自分に気付きつつも信じる方に決めていたとか、そういうややこしいものではきっとなくて

オリバーはジェームズを信じる方にしか、自分を置いていなかったんじゃないだろうか。

自分の置きどころをオリバーは自ずと、決めるという段階すらなく、ジェームズを信じる方に置いていたのではないだろうか。

 

それがロボットだからなのか、型が古いからなのか(クレアは経験ゆえか型が少し新しいゆえかそのどちらもか、人を疑うことを良くも悪くも知っている)、オリバーだからなのか、分からない。全部かもしれない。

 

分からないけれど、オリバーは、ジェームズとの思い出を、ジェームズと自分が友人であることを、何よりもジェームズのことを、きっと信じ続けていた。

 

オリバーは真っ直ぐで、素直で、そして唯一の友達であるジェームズを心から愛していたから。

 

本当のところなんてオリバー以外の誰にもわからないけれど、それでも

物語の冒頭、ジェームズを待ち続け、同じ日常を繰り返すオリバーの日々は、それはそれできっと幸せだった。

オリバーはジェームズを、信じていたから。

(その後、クレアと出逢ったことでその日常に戻ることはできなくなってしまったけれど。)

 

でも、本当は、ジェームズに迎えに来て欲しかったんだろうな。自分から行くのではなくて。迎えに来てくれることを夢見て、信じ続けてずっと同じ毎日をあの部屋で繰り返していたんだろうな。

 

それでも、迎えにきてもらうことはかなわなかったけれど、クレアに出逢ったことでオリバーはあの部屋から出て、自分の足でジェームズの元に向かい、

ジェームズが最後に自分を想ってくれていたことを知ることができた。 

 

オリバーがなぜ一人あのアパートに住まなければならなくなったかは、明かされない。迎えにくると言ったジェームズがなぜ来れなかったのかも。

ジェームズの家族は、クレアの予想通りジェームズのようにはオリバーを必要としてはくれなかった。

 

けれど、ジェームズは、きっとオリバーと離れてからも彼のことを考えていたし、オリバーと過ごした時間を大切に思っていた。オリバーの居場所が分からずに連絡が取れなかったのも本当だった。

ちゃんと二人は、お互いにとって大切な「友達」だったのだ。オリバーだけじゃなく、ジェームズにとっても。

 

この物語の終わりだけじゃなく、オリバーとジェームズの終わりも、「メイビー、ハッピーエンディング」なんだろうな、と思った。

 

ジェームズがなぜオリバーを手放したのかは結局分からないし、ジェームズが最期に何を思ったのか、なぜオリバーに形見を残したのか、明確には分からない。

けれど、ジェームズはきっとオリバーと同じように、二人で一緒に過ごした時間を大切に思っていた。お互いに友達だと思っていた。

ジェームズは、恐らく、オリバーを捨てたわけじゃない。

「持ち主」と「ロボット」じゃなくて、「ジェームズ」と「オリバー」として、きっと二人は最後まで友人だった。きっとあの世界において、とっても珍しくて、すごいこと。そしてそれを、クレアのおかげでオリバーは知ることができた。

そんな二人の終わりはたぶん、きっと。

 

 

 

私は、何かの作品を見て

「これからこういう風にしていきたいと思いました」「〇〇のようになりたいと思いました」と、読書感想文お決まりの締め文のように、

作品を自分の人生に対して作用させることがさも良いこと、正しいことであるように文章を締めることに抵抗がある(学生の頃にそういう優等生的文章を求められるがまま無意識に書いていた自覚があるので)のだけれど、

 

今回ばかりは素直に思ってしまった。

オリバーみたいに、人を真っ直ぐに信じられたら良いなあと。

過去にある誰かとの思い出や、相手の中にある自分の存在や、相手そのものを、素直に信じることができる関係性って、とっても素敵なものだなぁと。

 

自分にとって大切な思い出でも、相手にとってはそうでもないかもしれない。

自分は大切に思っている人だけど、相手にとっては大した存在ではないかもしれない。

 

基本的に、誰かの中にある自分の存在を過度に低く見積もってしまう癖がどこかあって、それでもまあ自分が相手のことを好きならそれで良いか、とつい思ってしまうけど、

もう少し、相手や、相手の中にある自分の存在を信じてみても良いのかもしれない

オリバーのように、真っ直ぐに相手と自分の関係性を信じてみても良いのかもしれないな、と

帰り道にそんなことを考えた二回目でした。

 

 

はあ、オリバー、かわいかったなぁ。