2020.8.23
メイビー、ハッピーエンディング、3回目を観に行ってきました。
3回行くと、ようやく観終わった後に、話の流れを自分の中で大体思い出せるようになるんだなという気づき。どうやら自分の中に残したい作品は、私は3回観なくてはならないらしい。
さて、3回目、感じたことをとりあえず新鮮なうちに、箇条書きしておこう。
・前半の音楽がめちゃくちゃ沁みる
3回目にもなると、自分が今見ている場面のあとに、話がどう展開していくか何となくは頭の中で分かってくるので、
オリバーとクレアの出逢いのシーン、2人が無邪気ににわちゃわちゃしているシーン、そしてその後ろで流れる歌と音楽が、後半の、二人が出逢ってしまったがゆえの切ない展開を連想させてきてもう、涙腺が、早い段階で崩壊しますね…………
なんか3回目が一番泣いていた気がする。
なぜ別れが必ず訪れるのに、人は出逢ってしまうのか、愛してしまうのか
なぜ終わりが必ずくるのに、人は誰かと共に過ごすことを始めてしまうのか
初回はただ、人間にとって普遍的なテーマを歌う曲に聴こえたんですよね。これからどんなお話が始まるのか知らないから。(あと私はあんまり初回、歌詞が入ってこないことも今回わかったのですが、まあとにかく「良い声だなぁ……」とか思いながらさらっと聞き流していた。)
でも、この物語を全て知ってからもう一度聴いたら、もうオリバーとクレアの曲にしか聴こえない。
だから二人が出逢った場面の時点で、もう後半の二人の時間が終わってしまうことを分かった後の二人を浮かべてしまう。
そんなことは何も知らない(知るわけもない)二人の、最初の噛み合わなさとか、オリバーのツンツン具合とか、少し打ち解けてきた後の二人の楽しそうなやり取りだとか、もう、二人とも幸せそうで、見ていて嬉しくてたまらなくなってしまう。
でも、その後を知っているから
「あぁ、出逢ってしまったなぁ」と思う。
けれど同時に「ちゃんと出逢えたなぁ」とも思う。
初回には感じえなかったあらゆる感情が、前半の優しくて幸せな音楽を聴きながらじわりと湧いてくる。その後の2人の大切な時間と、切ないけれど幸せ(かもしれない)なラストを、私は既に一緒に過ごしてきてしまっているから。
そんなわけで、前半からマスクを濡らしまくっていた3回目でした。メイビー、音楽がめちゃくちゃ沁みます。歌がある部分もない部分もとっても好き。後半も後半でかなりきます。サントラが欲しい。
・オリバー、可愛い
いや、これはもう初回から可愛いんですが、
こう何回も見ているともはや息子かな?みたいな気分で愛おしくなってくるんですよね。
オリバー、恐ろしい子……
郵便屋さんに対して、いつも同じように一生懸命お礼を伝えるオリバーも、クレアにペースを崩されてタジタジになっているオリバーも、自分が蛍を知らない理由が旧いことにあるわけじゃないと言われ素直に蛍について興味津々で聞いちゃう素直なオリバーも、そのあと蛍にすごいはしゃいでるオリバーも、「計画通りに行くのが好き!崩れるのが嫌い!」ってあれだけ言っていたのに、クレアに誘われいざ車で出発!ってなったら、「計画通りになんて行かなくていい、お外楽しい……!」ってワクワクしちゃうオリバーも、ノリノリで恋人の超詳細設定まで考え出しちゃうオリバーも(息継ぎ)、
……ぜんぶ可愛くて可愛くて、頭を抱えますよね……
不審者になるので抱えずにまあ真っ直ぐ座ってますけど、マスクの下では「あぁあ……可愛い………」って悶絶してました、これは三回とも。オリバー、可愛さの権化……
あんなに優しくて素直で愛らしい生きものがいたら、そりゃもう好きになっちゃうよね。
で、基本的には終始可愛いわけなんですが、恐ろしいのがクレアと恋に落ちた後のオリバー、
そこに格好良さというか、男性らしさが追加されるんですよね………
前半の、一人部屋で歌っているシーンや、クレアと二人で楽しそうに歌っているシーン、ジェームズとの回想シーンのオリバーは
あくまで「優しいオリバー」「可愛いオリバー」なんですけど、
クレアと恋に落ちたと自覚した後のオリバー、可愛らしさの中に混ざるんですよね、格好良さが……。クレアを想うがゆえに表れてくるオリバーの「男性」の部分が、声や歌や仕草やクレアへの接し方から滲み出ている。
本来プログラミングされていないはずの恋愛感情が生まれた後のオリバーは、人間らしさに加えて、恐らくは元々備わってはいなかったはずの男性らしさが生まれている。「優しいオリバー」には変わりないんだけれど、対・人間への優しさから、対・好きな人への優しさへと、クレアに向ける優しさが変わっているような。
特に歌にそれが出ているような気がして、「ああぁ……浦井さん、恐ろしや………」となって震えました。どこまで意図されているんでしょうね……平伏…
・クレアから見たメイビー、ハッピーエンディング
クレアの過去、細かく描かれるわけではないけど、恐らくは元持ち主から「捨てられて」いる。
オリバーが「ジェームズは友達」と言うたびに、クレアが「あぁ、元持ち主、ね」とあれだけ何度も繰り返していたのはきっと、自分が元持ち主に「持ち主」以上の感情を抱いていたからだろう。
クレアはオリバーに、過去の自分を重ねて見ていたんだろうな。
ロボットと人間は所詮「使用するヒト、されるモノ」の関係でしかない。仮にそれ以上の感情を一時的に持ってくれたとしても、それは永遠には続かない。人間は、皆そう。オリバーがジェームズの家に入った後の、クレアの回想。「彼」と「彼女」の歌。
クレアは元持ち主と恋愛関係にあったのだろうか。恋愛したことはあるのかと問われ、「私たちに恋愛感情はプログラミングされていない」と答えたクレア。「私と恋に落ちないで」とオリバーに言ったクレア。
備わっていないはずの感情を、クレアはかつて持ち主に抱いていたのだろうか。
彼は彼女を優しく見つめる。
でもやがて、その視線は冷たくなっていく。悲しい。永遠なんか、ない。
クレアの悲しい記憶。
恋愛かどうかは置いておいたとしても、クレアと元持ち主の間には、きっと「持ち主」と「ヘルパーロボット」ではなく「彼」と「彼女」としての関係性が、あったのだろう。けれどそれが、すれ違いからだんだん壊れていってしまった。「彼」の気持ちは変わってしまった。
それでも、悲しいけれど、消さなかった元持ち主との記憶。記憶を消すなんて、自分じゃなくなるようなものだと。「自分らしく最後まで生きる」と繰り返し言っていた、芯の強いクレアらしい選択だなと思った。
そんなクレアが、オリバーと恋に落ちた時
「こんな気持ち初めて」と歌う。
クレアが元持ち主に抱いていた感情が恋愛だったのかどうかはわからないけれど、
クレアがオリバーに対して抱いた感情は、元持ち主に対するそれとはまったく違うものだったんだろうな。
優しくて、少し面倒くさくて、でも真っ直ぐで、愛にあふれたオリバー。彼と一緒にいてクレアが感じたのはきっと、温かくて、安心できる、柔らかい気持ち。
オリバーがそういう人だから。
わかりやすくて素直で、なんだかんだ人のことが大好きで、一緒にいたらきっと自然と笑顔になってしまうような人。
クレアが最後に、オリバーに出会えて良かったなぁ。
12年あのアパートで一人で暮らしてきて、きっとクレアには友達もいたんだろうけど、それでもロボットであるクレアはずっと、元持ち主のことは忘れられなかっただろうから。
クレアが最後に大切に思ったのが、オリバーで良かった。最後にクレアを大事にしてくれた人が、オリバーで良かった。
最後、元持ち主との悲しい記憶を消さなかった強いクレアが、オリバーには「記憶を消そう」と言う。
自分がいなくなった後に、オリバーが悲しむのが辛いから。出逢ってしまった後の、幸せな思い出が残るのが辛いから。出逢う前に時間を戻そうと言う。
それでもきっと、オリバーよりはずっと器用に(相手のための)嘘をつけるクレアは、最初から心の奥底では、記憶を消去するつもりはなかったんじゃないかな、とも思ったりする。消してしまいたい、とは考えたのかもしれないけど。
あれは、ただただオリバーのためを思っての提案だったんじゃないか、と。ただ充電器を貸してもらうためだけの関係性に戻ってもいい、オリバーが自分を忘れても良い、それでもクレアはオリバーと居たかったんじゃないだろうか。
出逢わなければ知らなかった悲しさを、出逢う前に戻すことでなかったことにするような選択を、彼女は取らないような気がするから。
*
タイトル通り、最後、あのエンディングをどう受け取るかは私たちに委ねられているんだろうけれど、
回数を重ねるほど、オリバーにとっても、クレアにとっても、ジェームズにとっても
この物語はハッピーエンドだったんじゃないかな、という風に思えた。
みんなが誰かを大切に思っていて、誰かと過ごした時間を想って、それぞれが選択をした。
始まりと同じ音楽が流れた最後、オリバーは植木鉢を窓際から移す。
始まりの出会いと同じように充電器を借りにきたクレアは、「あなたは3なのね」と少し遠慮気味に帰ろうとする。最初あんなにハキハキ喋り、充電器を借りようと何度もノックしていたクレアが。
出逢う前の始まりと同じようで、少しずつ違う最後。
郵便屋さんがオリバーに最後に届け物をしたときの、君たちは賢いから大丈夫だ、という言葉は
実は最後のクレアの問いかけに繋がっていたりするのかな、と思ったり。
一番ハッピーエンドに思えた3回目、
初回とも2回目とも違う感覚を持ちながら劇場を出た。
3回見たから気付けたことがたくさんあったなぁ、と思う。
1回目も、2回目も、3回目も、毎回違う発見があって、
2回目、3回目は前の回とは違う場面に新たに心が動いて、
3回目は登場人物達のことをそれまでより沢山知れた気がして、皆愛おしくなった。
どの回も、幸せだったなぁ。
2月、これからは舞台をもっと観に行ってみたいと思って、けれどそれが叶わない状況になってしまって
それからずっとずっと、観たい、劇場に行きたいという気持ちを抑えて、非日常な日常をただただ過ごし続けて、自分の日常を回して、待って、
ようやく観れた作品が、この作品で良かった。
初回、席についたとき、有り難くて、安心して、嬉しくて、幸せでたまらなくなったあの気持ちを、記憶を、
ちゃんと忘れないでいられると良いな。ちゃんと覚えておきたいな。
とっても素敵な作品だった。
観に行けて幸せだった。
ありがとうございました。
また書くかもしれないけど、ひとまず。